第4章 観賞用として作り出された様々な品種と奇形の関係

エンゼルに限らずグッピーや金魚、錦鯉等々では野生の原種とは全く異なる色彩を持つ様々な品種が作り出されている事は多くの方が知る事と思います。今回の飼育・繁殖思案では「改良品種とは何か?」と言うテーマで掲載します。

改良品種と奇形は紙一重?

基本的に「改良品種」の定義は原種に比べ、主に「観賞価値」が高い個体を選抜交配を行い「品種」として固定化したものを言います。その一方で「奇形」とは通常とは異なった形をしているもの(魚の場合はヒレが無かったり目が無いなど)を一般的に奇形と呼びます。

さて、自分でもエンゼルの品種改良を行っている身ですから、品種改良に関しては私の見解としては金魚はともかくとして熱帯魚の人工着色は受け入れたくないものです。(着色は改良と呼べるような行為ではありませんので)品種改良とはあくまで品種改良に対して、肯定的な考えをもつ私としては大袈裟に言えば「人間によって作り出された芸術品」と思えるようなものだと思います。品種改良に対して決して否定するつもりはありませんので、このような事を書くのは少々気が引けるのですが、広い意味(学術的な意味)では「改良品種」とは奇形の1種と言えます。

突然変異で誕生する様々な改良品種

幾つか例を挙げて説明しますと「アルビノ」という品種は、突然変異によってメラニン色素と呼ばれる黒色の色素が作り出せなくなった異常のある個体を表します。ロングフィン(エンゼルではベールテールと呼びます)品種では、ヒレが通常よりも長く伸びる異常な個体と言い換えることも出来てしまいます。金魚に至っては原型を留めないほどに改良が進んでいる品種がかなり多く存在しますので、フナを原種と考えれば琉金(リュウキン)は脊椎や尾びれの異常な個体であり、高価な金魚の代表でもある蘭鋳(ランチュウ)は背びれも欠除している奇形とも言えるはずです。(あくまで学術的な見解で判断した場合です)

つまり、人間が良いと思った方向で魚の形を変化させていった物を「改良品種」、人間が良くないと思った物は「奇形」と言う事になります。(人間は勝手ですね…)野生の環境下では自然の手による淘汰が常に行われている為、形質的に異常のある個体が生き残る事は非常に低い確率になります。そして生き残るのに適した形の魚が環境に合わせて生息して進化する物であり、有名な「ダーウィンの進化論」では自然の環境で優位に立てる個体が優先的に繁殖を行う為、種の進化が行われるとされています。

進化論以外にもウイルス進化説として、キリンの首が長いのは進化の過程で首の短かったキリンにウイルスが感染して子供に首の長いキリンが誕生し、首が長いことにより豊富なエサを摂取する事ができた為子孫を優先的に残せた結果とも言われています。

改良品種も言い方を変えれば人間によって進化させられた魚と言えない事もありませんが、それは種として認知される事はない為、熱帯魚の飼育書や図鑑を見て頂ければわかると思いますが、世界共通の学名では改良品種のエンゼルは全て原種の「Pterophyllum scalare」のバリエーション(var.)として扱われます。種と改良品種の関連に関しては色が違うだけではなく、琉金や蘭鋳のような原種とは全く異なるような形をしていても、あくまで原種のバリエーションとしての扱いとなります。

時代によって変化する改良品種の受け入れ方

熱帯魚の中でも近年になって「バルーン」と呼ばれるデフォルメされたような可愛らしいタイプが色々な種類(モーリーやキッシンググラミー等)が作られていますが、これも脊椎の異常によるもので人間が見た目が良ければ改良品種として受け入れられる言う典型的な例だと思います。

これはまだアクアリウム対象の多くが欧米にあった時代、大雑把に言えば1970年代前後の話ですが、バルーンタイプのような奇形は生まれてきたとしても、単に商品価値の無い奇形として処分されていたのが現実です。それが時代の変化と共に“可愛らしい”と人気が出るようになると、改良品種として定着する結果になりました。時代によって改良品種の受け入れ方も変わるのは興味深いものです。

エンゼルフィッシュの場合は東南アジア産のエンゼルや国産でも一部の体型を気にしないで繁殖させているブリーダーの魚は、野生のスカラレ種と比べてかなり体型歪んでいる個体も多く見られるようになっています。(某雑誌のエンゼル特集などでかなり体型の崩れたエンゼルが紹介されているとプロポーションにこだわって繁殖させている私は正直言って悲しくなります)

あまり目立つことの無い改良のパターン

品種改良とはやや異なる事ですが、エンゼルの雄雌を見分ける特徴として雄親は頭部が盛り上り「こぶ」のようになると解説されている本も多く存在しています。この現象も実はワイルドスカラレやペルーアルタムと呼ばれるような野生のスカラレ種では雄雌の差はほとんど無く、エンゼルが増やされていく間に雄雌が見分けやすいと言う理由により雄雌が解りやすいエンゼルを選んで交配を続けた結果が多くの輸入エンゼルは雄が大きなこぶを持つようになっているのだと私は考えています。

その証拠に当店では詳しくはいずれ記載したいと思いますがヒレの長さは主に育成環境に左右されやすいのですが、体型はどちらかと言えば遺伝的な要素が強く私は野生のスカラレ種を理想としている為、年齢を重ねると多少は仕方ありませんが若いうちから大きなこぶが出るような個体は「淘汰」の対象として繁殖用の親には利用しないように心掛けています。

特に原種の血統を色濃く現している並やレースの血統の雄親は輸入エンゼルに見られるような、こぶが出るような個体は非常に少なくなっています。(飼育の方法や品種によっても多少の差はあり、長期間維持している血統ほど輸入のような極端なこぶはほとんどありえません)このような事だけでもいかに当店のエンゼルが独自の血統として維持されているかが理解して頂けるかと思います。 (詳しくは別の機会にご紹介する予定です)

長い話になってしまいましたが、改良品種と奇形とは紙一重であり、今までにも受け入れられずに消滅していった改良品種も多く存在します。また時代の流れによってそれらが受け入れられる時代も来るかもしれません。

色彩の改良については多くの場合が問題なく受け入れられますが、体型については魚によっても異なるので難しい所ですが少なくともエンゼルではバルーンのような変な体型や金魚のような3つ尾のエンゼルは作ったとしても受け入れられる事は無いのだと思います。

改良品種として認められるかどうか、これは市場が判断する事となりますが、学術的には奇形でも全てが悪い物だと言う訳では無く、色の美しいようなタイプは改良品種として愛されている様々な品種がある事も覚えておいて頂けると幸いです。


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