第12章 エンゼルの調子が悪い…病気とその対処方法

エンゼルフィッシュに限らず、熱帯魚の飼育で一度は経験するのが病気の発生です。プロブリーダーとしてエンゼルフィッシュを繁殖させている場合はごく稀にしか病気になりませんが・・・それでも環境が変わったり、飼育に慣れていない場合などでは病気になる場合も見受けられます。

単に病気と言っても様々な病原体によって対処方法が異なりますので、もしエンゼルフィッシュが調子悪そうにしている場合は一度、病気を疑ってみる事も重要です。病気の治療は早期発見・早期治療が何よりも大切なポイントとなります。このページでは病気とその対処方法について記載しています。

体やヒレに白い点が表れる「白点病」

この白点病は体長10cm以下の魚に最もよく見られる病気です。基本的にエンゼルフィッシュの場合、この病気になる可能性は低く、感染しても適切な治療を行うことで大半の場合は完治が可能です。病気の特徴は魚の体表に白い点が発生して放置すると体全身に広がり、熱帯魚が衰弱して死んでしまう病気です。

白点病の発生は主に魚が衰弱している時や水温の低下によって、ショックを受けた時に発病するケースが多く見受けられます。古くは水温25度以下のみで発生するとされてましたが、現在では少なくとも熱帯魚に感染する白点病は高温耐性を取得しているようで、28位度以上の環境でも発生するケースも少なくありません。

白点病の詳細について

この白点病の正体は原生動物の一種、繊毛虫の仲間である「イクチオフィチリウス」と呼ばれる生物の寄生によって発病するものです。白点のサイズはバラツキがありますが、大きな物で0.5~0.7mm程度で卵円形をしています。

肉眼では見えないほど小さな白点虫の子供が魚の体表などに寄生し、栄養を吸う事で成長を続けて肉眼で見えるサイズまで成長する為、症状が現れた段階では水槽内にかなり増殖している事が予想されます。

主な寄生部位は体表やヒレですが、稀に鰓にも寄生する事があります。鰓に寄生した場合は呼吸困難により病死するリスクが高まるため、より適切な治療を進める事が大切だと言えるでしょう。

白点病の治療方法

この病気は最も発生が多い為、専用の魚病薬も多く角メーカーより様々な製品が発売されています。古くから利用されている基本的な治療方法としては、水温を2度~3度上昇させてメチレンブルーを規定量の半分程度の量で使用すると良いとされています。

ただし、水草の水槽でメチレンブルーを使用すると、全て水草が枯れてしまう可能性が高いので注意が必要です。メチレンブルーなどの色素系と呼ばれる魚病薬はどれも似たような性質ですが、水草を枯らさないように作られた魚病薬も登場していますので、水草水槽で発生した場合はそのようなタイプを利用したほうが良いでしょう。


マラカイトグリーンは水に色が付くのも
一時的で、白点病への効果の高い魚病薬です。

ヒレが徐々に腐って斃死する「尾ぐされ病」

この尾ぐされ病は主に魚のヒレが徐々に腐り、次第に体まで最近に侵食されて死亡する病気です。尾ビレから病気が進行する事が多い為、この名前が付けられています。必ずしも尾鰭から症状が出るわけではなく、特にエンゼルの場合はヒレの透明感がなくなるような濁ったような感じになったり、体表の粘膜が白っぽくなる初期症状として現れることも多いと言えます。

病気の進行特徴として、魚のヒレが軟条(なんじょう)と呼ばれるヒレの筋のような部分を残してヒレの膜の部分が溶けて行き、やがては体の一部や軟条も腐って死亡してしまいます。主にグッピーのような魚に見られる病気で、オスのグッピーの尾びれがボロボロになる事が多い為、「尾ぐされ病」と呼ばれる事が多いようです。他にも「鰭ぐされ病」や単に「カラムナリス症」と呼ばれる場合も多くあります。

尾ぐされ病の詳細について

この尾ぐされ病は「フレキシバクター・カラムナリス」と呼ばれる細菌によって引き起こされる病気です。健康な状態ではほとんど問題ありませんが、魚が弱っている場合にヒレなどに傷が付くとそこから細菌が進入して病気が発生する場合が多く見られます。

早期発見を行わないと非常に病気の進行が早く、致死率も高いため治療は難しくなります。水温や細菌のタイプによって進行速度には差がありますが、進行の早いタイプは1時間ごとに症状の悪化が目に見えるほどの驚異的な感染力を示すタイプも存在します。

尾ぐされ病の治療方法

治療には細菌性の病気に効果のある魚病薬(エルバージュやグリーンFゴールド・ハイトロピカルなど)を利用します。エンゼルフィッシュの場合は魚病薬に対する抵抗力が比較的に強い為、使用しているフィルターの能力にもよりますが、規定量を使用しても薬害によってエンゼルが死亡する事は少ない様子です。

魚病薬に弱い魚(古代魚やナマズ類など)がいる場合には使用量を半分以下に抑えた方が良いでしょう。あまり投薬の量が少なすぎると効果を得る事が難しい為、特に症状が進んでしまった個体を治療するには病気で斃死するか、薬の薬害で斃死するかのギリギリの判断をする覚悟も必要になります。この辺の部分は個々の経験による面が大きく、一概にどうすれば良いと判断できるものではありません。


尾ぐされ病の治療は早期発見が第一です。
進行が速いので、万が一の時に備えて
魚病薬を用意しておきましょう。

外見的に明かな異常を表す「松かさ病」・「ポップアイ症」・「腹水病」

この病気はエロモナス菌と呼ばれる細菌感染によって色々な病状を表す病気になります。「松かさ病(立鱗病)」は熱帯魚の鱗が開いた「マツボックリ」のように逆立って見える為、このような病名が付けられています。「ポップアイ症」もその名の通り、目が異常に肥大して飛び出て“出目金”のようになってしまう病状を現します。 

このエロモナス感染症は初期症状に鰭の付け根が赤く充血する場合が多いようですが、この病気でなくても透明鱗のエンゼル等は体質的に充血しているように見える場合もあり、その中には全く初期症状を現さずに進行していくようなタイプも存在しますので、なかなか判断は難しい病気です。

エロモナス感染症の詳細について

この病気の正体は「エロモナス菌」と言う細菌が熱帯魚に感染して発病する病気です。 病気の症状によって様々な病名で呼ばれる事が多く、全てをまとめて「エロモナス感染症」と呼ぶ場合もあります。 病気の進行速度は遅い方で徐々に調子を崩して病状が現れてくる場合が多く見受けられます。 

これらの病気は主に水槽の掃除をあまり行わないでいると、雑菌の繁殖が増加して発生する場合が多いようです。特に水の汚れに敏感な「アピストグラマ」や「ペルヴィカクロミス」の仲間ではこの傾向が顕著に現れます。

この病気はエンゼルフイッシュの飼育下で発生する病気の中でも最も発生確率が高い病気の一つです。特に餌の与えすぎによる水質の悪化、濾過器のメンテナンスや砂利の掃除を怠っていたりする場合に発生しやすい傾向が確認されます。通常は何処にでも存在する細菌ですので、体力の低下やストレスが病気の引き金になるケースが多い為、飼育管理を怠らない事で予防するのが理想的と言えるでしょう。

エロモナス感染症の治療方法

この病気は発病も遅い代わりに治療にも時間が必要です。著者の経験では「オキソリン酸」を主成分とする魚病薬(パラザンDやグリーンFゴールドリキッドなど)が最も効果的な成果を上げています。そのほか細菌感染性の治療薬(エルバージュやグリーンFゴールド・ハイトロピカルなど)も効果があります。また、0.5%前後の汽水飼育も効果がありますので、治療に専念する場合は魚病薬と併用する事が効果的です。

ポップアイや松かさ病は「末期症状では治療不可能」とされるケースが多く見受けられますが、アピストグラマやペルヴィカクロミス、ラミレジィなどと比べると、エンゼルは病気が進行しても適切な治療を行えば治るケースも少なくありません。症状が進んでしまったとしても、諦めずに辛抱強く治療を行うこともポイントになります。


エンゼルの病気で最も多いのがこの病気です。
症状の進行は早くありませんが、治りにくいので
魚病薬を常備しておくと良いでしょう。

外見上の変化が少ない「エラ病」

ギロダクチルス症・ダクチロギルス症ダクチロギルスと思われる寄生虫に
寄生されたエンゼルの鰓の顕微鏡写真。
肉眼では確認することが難しく、
この写真は感染が疑われた個体から
鰓の一部を採取して撮影したものです。

この病気は主にエラに寄生虫が寄生して呼吸困難になり、やがて次第に衰弱したり、窒息死する病気ですの総称です。この病気は外見上は特に変化が無くエラ蓋がやや脹れていたり、魚が体をかゆがって水草や流木、パイプなどに鰓蓋を擦りつけるような動作をする場合もあります。特にこの病気を経験した事の無い人の場合はなかなか判別が難しく、原因が解らないままに死んでしまう場合も多く見受けられます。

 呼吸速度も一般的な速度よりも早くなる場合が多いようですが、呼吸が粗くなるのはよほど重症と呼べる状態の為、そうなる前に発見して治療を試みるのが理想的と言えるでしょう。

エラ病の詳細について

この病気は主に「ギロダクチルス」と「ダクチロギルス」と呼ばれる吸虫の寄生によるタイプが大半を占めます。エンゼルやディスカスのブリーダーの中では最も発生しやすい病気(通常その他の病気は発生しない為、大半はこのケースになります)です。

主に与えている餌により病原体が持ち込まれる場合が多く、健康な魚の場合は特に問題は起き難く衰弱した魚の場合は調子を崩して死亡するケースも多く見受けられます。 この他に白点病とウーディニウム病の原虫が鰓に寄生して発症するエラ病も存在しています。

エラ病の治療方法

鰓に寄生する吸虫の駆除にはディスカスやエンゼルの場合は「ホルマリン」の利用が一般的です。使用方法は飼育水10リットルに対して0.5cc~1ccのホルマリン溶液(ホルムアルデヒド37%水溶液)を加えて3~4時間後100%の水換えを行い、一度では完全に駆除できない為、3日~5日毎に反復使用を行い、最低でも3回以上は行うことで大半の場合は完治します。

ホルマリン以外の効果のある薬品としては「ウオジラミ」や「イカリムシ」の駆除に効果のある「トリクロルホン」を主成分とした魚病薬(トロピカルNやマゾテン液)を利用する事で治療する事も可能ですが、この薬も非常に危険の高い為、薬に弱い熱帯魚(ナマズや古代魚など)には利用するのは薬害による斃死リスクも大きい事を充分に注意しましょう。

上記の治療方法は主に「ギロダクチルス」と「ダクチロギルス」に対する治療方法なので他の病原体の場合は各病気の治療方法によります。

飼育マニュアル コンテンツ一覧

第1章 エンゼルフィッシュってどんな魚?
第2章 失敗しないエンゼルフィッシュの購入ポイント
第3章 エンゼルフィッシュの飼育に最適な水槽と飼育可能な数
第4章 エンゼルフィッシュの飼育に最適な濾過装置とは?
第5章 エンゼルフィッシュに最適な餌はどんな餌?
第6章 エンゼルフイッシュに最適な水温・水質と飼育可能な範囲
第7章 エンゼルフィッシュと混泳に注意が必要な熱帯魚
第8章 エンゼルフィッシュと混泳の相性が良い熱帯魚たち
第9章 品種によって異なるエンゼルフィッシュの飼育難易度
第10章 エンゼルフィッシュの寿命と繁殖可能な年齢
第11章 輸入エンゼルフィッシュとエンゼル病
第12章 病気とその対処方法
第13章 エンゼルフィッシュ水槽のレイアウト


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