エンゼルフィッシュは基本的にはどんな餌でも慣れれば食べるようになりますが、このページでは栄養学的な観点と著者が長年に渡ってエンゼルフィッシュの累代繁殖を行ってきた経験を元に、どのような餌が最適か?をまとめたものです。 これがすべて正しいなどと豪語するつもりはありませんが、飼育の参考にして頂けると幸いです。
まずはエンゼルが好む餌を知る事が重要
エンゼルフィッシュが最も好む餌は生きた動物性の飼料です。エンゼルフィッシュを解剖してみると胃のサイズと腸の長さから肉食性の高い熱帯魚であると言う事が判断できます。生きた餌を好んで食べる上、グッピーなどの稚魚も食べてしまう事から見ても、動物性の餌を好む事は明らかです。 但し、いくら好むと言っても動物性飼料だけでは栄養面の偏りがありますから、動物性の飼料を中心に補助程度に植物性の餌を与える事が好ましいとでしょう。
人工飼料は動物性、植物性の餌を混ぜてバランス良く製造されているのが一般的です。その為、エンゼルフィッシュを飼育する上では、人工飼料だけでもほとんど問題はありません。生餌や冷凍飼料はその高蛋白な特徴から特に子供の頃に与えると、人工飼料と比べて比較にならないほど高い成長力を示します。これらは飼育する人の都合によって使い分けて頂ければよいと思います。
上記でも説明しましたが、単に「餌」と言っても様々な種類があり、エンゼルが好む餌と好まない餌があります。大まかな分類として、「生餌」・「冷凍飼料」・「人工飼料」・「ドライフード」の4つに分けてエンゼルフィッシュに対する餌の良し悪しを検証してみましょう。
古くから熱帯魚の飼育に利用されている「生餌」
これは文字通り生きた餌です。主に小型・中型の熱帯魚に与えられる「生餌」は一般的に以下のような物があります。これ以外にも「川虫」と呼ばれるトビケラの幼虫等も餌に出来ますが、入手困難なのでコメントは控えておきます。
釣りの餌としても利用される「赤虫」
これは「ユスリカ」と言う人を刺さない蚊の幼虫(ボウフラ)です。蚊と言うとどうしても人を刺す蚊を想像してしまいますが、人体には無害の蚊の仲間で幼虫は真っ赤な体をしています。
生きた赤虫(冷凍もある程度含めて)衛生面の問題を気にする方も多いようですが、生餌である以上は雑菌や病気を持ち込むケースが稀にあるのは事実です。しかし、元気なエンゼルフィッシュであればそれほど過敏になる必要はありません。
過保護に育てすぎると、逆に環境が変わった時などに病気になりやすい軟弱なエンゼルに成りかねない懸念も発生してしまう場合があります。メリットの大きなエサですが、デメリットもあるので少し気を付けて神経質になりすぎないように適切に使えれば理想です。
保存が面倒で衛生的にも注意が必要な超高カロリーの生餌「糸ミミズ」
糸ミミズ(通称イトメ)も最も古くから利用されている餌の一つです。昔は近所のドブ川を探せば幾らでも手に入れる事が出来た為、安価で多くの熱帯魚店でも販売されていました。しかし下水処理の近代化が進んだ結果、環境の変化で入手も困難になり価格も高価になっています。保存も難しい生餌の為、現在では扱っているお店も少なくなっています。
衛生面に関しては上記の「赤虫」と同様に雑菌などを持ち込む可能性が否定できませんが、上記で説明したようによほど過保護に育てた熱帯魚に利用するのであれば問題はでる危険性が高まります。一般的な飼育をされている場合はそれほど神経質になる必要は無いでしょう。 糸ミミズは赤虫と比較しても高蛋白で消化にも良い為、特に子供の時に与えると人工飼料と比べて目に見えるほどの成長の差が現れます。
ですが、あまりに高カロリーで消化に良く、嗜好性も強い為、成熟した大人のエンゼルフィッシュにこの餌だけを与えるとすぐに肥満化してしまいます。これは突然死を起こす場合があり、注意しなくてはならないデメリットと言えるでしょう。 逆に痩せてしまったエンゼルの回復などには非常に効果の高い餌ですから、用途によって使い分けて利用するのがポイントになります。
入手・保存の困難な「ミジンコ」
誰でも1度は理科の教科書などで顕微鏡写真などを見た経験があると思いますが、このミジンコも良い餌の一つです。単にミジンコと言っても様々な種類があり、餌として適しているのは「タマミジンコ」と「マルミジンコ」です。条件が良ければ爆発的に増えるプランクトンの為、うまく増やすことが出来れば子供のエンゼルにとっては非常に良い餌ですが、ミジンコの養殖は熱帯魚の飼育よりも遥かに困難な為、あえて挑戦する必要は無いでしょう。
暖かい時期は活エサとして販売されている場合もあり、寒い時期は耐久卵を入手することもできるので、エサにこだわって飼育したいと考えられているアクアリストの方なら、自家培養にもチャレンジして見ると面白いかもしれません。
シーモンキーの名前で売られていた塩水湖産の「ブラインシュリンプ」
一時、「シーモンキー」の名前でオモチャ屋などでも販売されていた事がある甲殻類の一種です。主に熱帯魚を繁殖させる上で稚魚の餌として非常に重要な餌だと言えます。現在は海水魚のお店などで5mm~10mmほどの大人のブラインシュリンプも販売されているケースもあり、こちらはエンゼルにとっても良い餌になります。
様々な用途に応じた多くの製品が考案され発売されている「冷凍飼料」
「ターコイズディスカス」の登場によりブームとなったディスカスですが、飼育には餌や水質などが色々と難しい面があり、初めて熱帯魚を飼育する人には多少、ハードルの高い熱帯魚です。現在では飼育器具及び餌の発達により比較的容易に飼育できるようになっています。
このディスカスを飼育する上で重要なのが高カロリー飼料で、ディスカス専用に制作された「ディスカスハンバーグ」という餌や冷凍赤虫も低価格化と普及が進むきっかけなりました。ここでは冷凍飼料の種類について説明します。
最もスタンダートな冷凍飼料「冷凍赤虫」
これは生きた赤虫を急速に冷凍したもので、嗜好性と栄養価を生きた赤虫とほとんど変わらずに利用できる良い餌です。一般的に細かく割って与えられるように「板チョコ状」に加工されていて、エンゼルフィッシュの場合は凍ったままの状態で与えても特に問題はありません。
また、飼育数が少ない場合は冷凍庫で保存する際に空気に触れることで発生する“冷凍焼け”を減らすことのできるPTP包装の製品がお勧めです。板チョコタイプと比べて高価ですが、保存性に優れて製品によってUV殺菌やビタミン類の追加などの付加価値を上げている製品もあります。
冷凍赤虫は、製造メーカーや保存状態、養殖された時期による品質など、品質にバラツキがある事があります。あまり神経質になる必要はありませんが、衛生面を考えて信用できるお店の品物でない限り、あまりに安い物は避けた方が賢明です。
ディスカス用に開発された「ディスカスハンバーグ」
これは大量のカロリーを消費するディスカス用に考えられた餌です。ハイレベルなマニアの方は自分で生のハンバーグを制作している方も居ますが、一般的には冷凍されたメーカー製の物が主流です。エンゼルフィッシュとディスカスは体型的にも食生活も似た熱帯魚ですから、このディスカスハンバーグもエンゼルフィッシュに利用できます。
しかし、非常に高カロリーで水を汚しやすいデメリットもあり、与え過ぎるとプロポーションが崩れる場合があります。衛生面では神経質なディスカス用に製造されていますが、加熱処理をされていないので寄生虫などを持ち込むケースも稀にあるようです。
稚魚の餌として主流の「冷凍ブラインシュリンプ」
これは生餌で紹介した「ブラインシュリンプ」単純に急速冷凍した製品です。一般的に2つのタイプがあり、稚魚に与える為の孵化して間もない幼生を冷凍した「ブラインシュリンプベビー」とディスカスやエンゼル等の中型魚の餌として販売されている塩湖で採取された親物を冷凍した「ブラインシュリンプアダルト」の2種類が存在します。どちらも良い餌の一つで、特に魚の色揚げ効果が高く、赤系のディスカスやレッドトップ系のエンゼルに与えると赤味が増して美しくなります。
最も手軽に熱帯魚を飼育できる「人工飼料」
一般的に熱帯魚を飼育する場合、最も良く利用されるのがこの人工飼料です。これは熱帯魚の栄養バランスを考慮して製造されている為、基本的にはこれだけでも問題無く飼育できるように設計されています。
メーカーによってはエンゼルフィッシュ専用の人工飼料も存在し、それ以外でも熱帯魚用の人工飼料であればほぼ問題なく与えることが出来ます。人工飼料のタイプ別にエンゼルに対して良いものを考えて見ましょう。
一番ポピュラーな人工飼料 「フレークフード」
一般的に熱帯魚を飼育する場合は最も良く利用されるのが、このフレーク状に加工された人工飼料です。これは熱帯魚の栄養バランスを考慮して製造されている為、基本的にはこれだけでも問題無く飼育できるように設計されています。水槽に入れるとしばらくは水面に浮いており、吸水が進むと水底へ沈むようになります。
主に小型魚用の「顆粒状」の人工飼料
主にネオンテトラなどの小型魚用の細かい顆粒状に加工された人工飼料です。エンゼルフィッシュの場合は子供の時は問題ありませんが、大きくなると餌が細かすぎて食べ難い為、ほかの別タイプの餌へ切り替えるのがお勧めです。
中型魚用の「クランブル状」の人工飼料
主に「ディスカスフード」と呼ばれている人工飼料に多く見られるタイプです。他のタイプに比べると「ディスカス用」と呼ばれるタイプは動物性の比率が高く、高蛋白・高カロリーなタイプが多く存在します。ディスカス用は栄養バランス的にもエンゼルフィッシュに適した人工飼料と言えます。
似たような構成のエンゼルフィッシュ専用を謳う製品もあります。また、中型シクリッド用の「ペレット状」の人工飼料も近い飼料で、エンゼルフィッシュにはちょっと大きすぎる製品が多いようです。
主に底に住む熱帯魚用の「タブレットフード」
このタイプは主にコリドラスやプレコの仲間のような水底を好む魚用の人工飼料です。エンゼルフィッシュにあえて利用する必要性は無いと思いますが、コリドラスなどを一緒に飼育する際には他の飼料と併用すると良いでしょう。
生餌を凍結乾燥させた「ドライフード」
主にこのタイプは「生餌」で紹介した餌を凍結乾燥させたタイプの餌です。栄養価は生や冷凍に比べて多少は劣りますが、人工飼料並みに便利で使いやすい餌です。
与える量の調整が容易な「乾燥赤虫」
所謂「赤虫」を乾燥させたタイプの餌です。熱帯魚の嗜好性の高く、普通の人工飼料を食べない場合でもこのタイプであれば食べる魚も多いようです。与える量の調整も用意なので使い方によってはとても便利な餌になります。同じ赤虫でもメーカーによって若干の違いがあります。栄養面は冷凍赤虫のほうが良い餌ではありますが、冷凍庫に赤虫を入れることに抵抗のある家も多く、その様な場合には良い選択枝となるでしょう。
固形状が主流の「乾燥イトミミズ」
この乾燥イトミミズは主に「サイコロ状」に加工されて売られている場合が大半を占めます。 水槽に入れてもなかなか水を吸わないのが欠点ですが、その性質を生かして水槽のガラス面に押し付けると、しばらくはガラス面に張り付いている状態になり、水槽の熱帯魚たちがその餌に群がる様子を楽しむ事が出来ます。生の糸ミミズと違い、衛生面はほとんど問題ありません。
オキアミを乾燥させた「クリル」
クリルは主にオキアミを乾燥させた大型魚の餌として利用される乾燥飼料です。小型魚に与える場合は指で磨り潰すと簡単に細かくなるので、必要に応じて与える事が出来ます。嗜好性は高く、色揚げ効果も期待できるのでレッドトップエンゼル等にはお勧めできます。塩分を減少させた製品や川エビを原材料とした商品も発売されています。
エンゼルフィッシュに餌の種類についての総括
上記で紹介した餌以外にも非常に多くの餌が存在します。一番大切なことはエンゼルフィッシュが沢山の餌を食べて元気に育つ事が最も重要な事です。手間のかかる餌を与えていて面倒になったからと、餌をあまり与えないように事になるのでしたら・・・使いやすい餌を利用するほうが良いでしょう。
理想を追い求めるのも悪い事ではありませんが、飼育者の負担にならない餌を見つけて無理無く続けられることが大切です。調子が悪くても言葉を発することの出来ない熱帯魚たちは毎日の給餌は体調の様子を測るとても大切な日課と言えます。
飼育マニュアル コンテンツ一覧
第1章 エンゼルフィッシュってどんな魚?
第2章 失敗しないエンゼルフィッシュの購入ポイント
第3章 エンゼルフィッシュの飼育に最適な水槽と飼育可能な数
第4章 エンゼルフィッシュの飼育に最適な濾過装置とは?
第5章 エンゼルフィッシュに最適な餌はどんな餌?
第6章 エンゼルフイッシュに最適な水温・水質と飼育可能な範囲
第7章 エンゼルフィッシュと混泳に注意が必要な熱帯魚
第8章 エンゼルフィッシュと混泳の相性が良い熱帯魚たち
第9章 品種によって異なるエンゼルフィッシュの飼育難易度
第10章 エンゼルフィッシュの寿命と繁殖可能な年齢
第11章 輸入エンゼルフィッシュとエンゼル病
第12章 病気とその対処方法
第13章 エンゼルフィッシュ水槽のレイアウト